もう弱者は貸主かもしれない。~供給過多が起こした革命~

不動産の賃貸借契約をする時に”礼金”というものがある。支払う側からすれば納得がいかないものだろう。この礼金とはもともと戦後の住宅不足の頃、契約させてもらったお礼として借主が大家に渡していたのが始まり。なかなかの”上から”である。

 

借地借家法を知っているだろうか?これは土地や建物の賃貸借契約において立場が弱いとされる借主を保護するための特別法である。

 

しかし今、借主の立場は本当に弱いのか?全国的に空き家が増えている現在、貸主は「貸してやる」というよりは「借りてください」という感じだろう。収益還元的な評価をすれば借主のいない物件は価値ゼロ(維持コストや税金はかかるのでむしろマイナス)である。

 

相続税を節税するために、地主は建物供給を続ける。これは実際の需要があるからではなく、節税が目的なので供給過多となって古い物件から空室率が増えていく(新築プレミアムという言葉もあり、基本的には借主は新しいものを好む)。よって古い物件は価格を下げて借主を獲得しようとする。

 

現在は初期費用を抑えたい(払えない?)人のため、敷金も礼金も0円の物件も増えている。1ヵ月間フリーレント(タダ貸し)も一般的になっている。大家側が支払う礼金である。借りてくれてありがとう。立場逆転だ。

 

また国土交通省が制作した原状回復のガイドラインもなかなか貸主に厳しいものになっている。最近の傾向は貸主に不利なことが多い印象だが、依然として借地借家法は借主保護を前提とした法律である。

 

実質的に"契約の解除を貸主からはできない"ことも非常に厳しい(借主はもちろんできる)。定期借家という更新を前提としない契約(双方合意による再契約は可能)もあるにはあるが借主や仲介業者も嫌がるし、あまり普及している印象はない。しかし借主を探しているのになぜ契約の解除をする必要があるのか?

 

それはトラブルメーカーを入居させてしまうと隣接している入居者が出て行ってしまうのだ。いい人がいなくなり、トラブルメーカーが残るという結果になってしまう。しかしこのトラブルメーカーを退去させようとしたら自主的に出て行ってくれない場合は裁判になる。ものすごい労力だ。しかも退去させるのには裁判官が認めるそれなりの理由(正当事由)が必要となり、ものすごくハードルが高い。マナーが悪い程度ではダメだろう。通常2年に1回ある更新は入居者に引越しをするきっかけを与える。その時に出て行くのは居心地の悪くなったいい人の方だ。1人のトラブルメーカーを入居させて両サイドの2人が退去した、合計はマイナスなんてこともある。

 

ちなみ貸主は借主が建物を使用収益できるようにする(契約した目的を達成できるようにする)義務があり、それをしなければ債務不履行で損害賠償を請求される可能性もある。

 

トラブルメーカーが変なことをしてそれが周りの入居者が住むのに悪い影響を与えていたら、対処する義務がある。みんなが避けたがるトラブルメーカーに正面から向かっていく義務があるのだ。まるで警察である。

 

大量供給してしまい需要を上回ると余りだして価値が減少する。相続税は節税できたかもしれないが、それは立場を悪くするのと引き換えかもしれない。